キッチンの冬

キッチンの冬と言えば、大きな鍋があること。夏の間休んでいた鍋が再び出されます。鍋に“ 放り込まれた” 野菜はじっくりと煮込まれて、忘れられてしまったかのよう。それは火と新鮮な食材のコンビネーションがなせる技です。調理に手をかける必要はありません。小さな炎がゆっくりと、食材を特別な一品に仕上げてくれるからです。

フタを開けて煮えたかどうか確かめたら、友達を数人テーブルへ呼びます。なめらかな煮汁と風味良く仕上がったたっぷりの野菜は、じゃがいものピューレかスパイスの効いたクスクスに添えるだけでOKです。

ディナーが煮詰まってきたら、つまり終わりに近づいたら、テーブルに冬のつつましくも魅惑的な色どりであるフルーツを用意しましょう。赤ワインのグラスを手に、季節がもたらす最高の味覚を堪能する時です。

私訳・引用:Michele Cranston, “fresco” (Lodi, Biblioteca Culinaria, 2003) p.158

先日、料理の本を眺めていたら、冬のキッチンについてこんなことが書いてありました。寒さも本格的になり、まだ豆の収穫が遠いこんな季節です。乾燥豆をハーブと香味野菜で下茹でして、野菜と豆を煮込んだスープを作っていると、湯気が立ち昇って部屋が暖かくなります。オリーブオイルを加えて葉野菜を煮込むと、硬いスジも柔らかくなって、甘みが出てきます。なので、スパイスを少し加えてアクセントをつけます。特に何もしなくても、お鍋が仕事をしてくれる冬の料理。煮込んでいる間に他のこともできるし(笑)、なにか感謝の念が湧いてきます。

年が明けて早くも、ひと月が経とうとしています。年末年始に私はスケジュールを詰めすぎて疲労し、今月前半はダウンでした。毎年恒例の木版画年賀状が、年賀状にもかかわらず8版にもなってしまったこと。それ以前に下絵のスケッチに2か月もかかり、そのしわ寄せが年末に来てしまいました。そして、その年賀状摺りの最中(もう元日に届くようにとか、念頭になし)、おせち料理を作っていました。というのも、これまでおせちを作っていた祖母が、昨年から介護施設に入居しているからです。私にとっては人生初のおせち料理作りで、皆で手分けしての持ち寄りおせちが完成しました。煮しめ、筑前煮も食材を煮込んで後はじっくり出汁を浸み込ませる、お鍋が本領を発揮してくれる料理ですよね。

祖母がお正月に一時帰宅したときに、ぜんざいを食べたいというので、これも人生初のぜんざいを作りました。昨年11月に、正月に帰宅したら何を食べたい?と祖母にたずねたのですが、冗談で「ぜんざい?」と言ったら、祖母(96)がぜんざいを食べたいと言ったのです。最近いろんな所で冗談が通じていないような気がします… 

とにかく小豆の皮が柔らかくなるように、圧力鍋で煮ました。それから、これはぜんざいだけではなくおせち料理もそうなのですが、使用する砂糖の分量が多い。おせち料理は、日持ちがするように保存食でもあるので仕方ないところでもあります。とは言うものの一日の食事で摂る糖の量を考えるとやはり気になります。きび砂糖、てんさい糖、蜂蜜、みりんなどを使って、やさしい甘味にしつつ間の抜けた味にならないようだいぶん苦心しました。祖母には焼いたお餅をハサミで小さく切って、二切れぜんざいに入れてあげました。周りはひやひやしていましたが、祖母はゆっくり味わって食べていました。

香りを嗅いで懐かしい思い出がふっと蘇ることを「プルースト現象」と言うそうです※1。マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』に出てくる、マドレーヌのかけらが入ったお茶が主人公に懐かしい記憶を思い出させた、というくだりと同じような体験をすることを指します。この香りによってエピソード記憶(時間や場所、その時の感情が含まれた記憶のこと)が呼び覚まされる「プルースト現象」の利用が、認知症の治療に有効だと考えられているそうです。実際に認知症患者の方が、プルースト現象を体験して、それまでまったく思い出せなかった家族のことなどを思い出した事例があるそうです。もしかすると、祖母もぜんざいを通して、手繰り寄せたい記憶があったのかもしれません。

さて、1月の地中海式食事法・実践料理教室では、ヤリイカのトマトソース煮スパゲッティを作りました。ヤリイカは冬から春先が旬で、スルメイカとは異なり、煮込んでも固くならないイカです。この時期だとスルメイカくらいの大きさのヤリイカが店頭に出ていることがあって、トップ画像の上部写真に写っているヤリイカもそうです。私は写真のようにグルテンフリーの玄米スパゲッティ、参加者の皆さんは全粒粉スパゲッティで味わっていただきました。

地中海式食事法の料理教室は、引き続き参加者募集中です!よろしくお願いします。


※1 参考文献:廣瀬清一著『香りアロマを五感で味わう:魅惑の世界を科学する』フレグランスジャーナル社、2017年

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